写真提供：佐賀県
当社は令和4年3月27日に公開された佐賀県立名護屋城博物館の黄金の茶室の制作に携わらせていただきましたのでその内容についてご紹介いたします。
その前に「名護屋城」について簡単に触れさせていただきます。
名護屋城は豊臣秀吉が1590年に天下統一を成した後、1592年に現在の佐賀県唐津市鎮西町に豊臣秀吉の命により築城されました。それは朝鮮半島そして、中国大陸への侵攻を目的とする拠点で、名護屋城の面積は当時大坂城に次ぐ大きさで17haに及ぶと言われています。その名護屋城の周りには全国から徳川家康や伊達政宗、石田三成といった150をこえる大名が陣屋を築き、堺などからの商人も含め、人口が20万人を超える大都市が形成されたそうです。
今回の「黄金の茶室」の制作は佐賀県が「はじまりの名護屋城。」プロジェクトの一環として文化庁の補助を受け、文化発信の目玉として企画された事業です。
当社は過去に、黄金の茶室やプラチナの茶室の制作経験がありますが、今回の茶室制作はかの天下人
豊臣秀吉が諸大名や海外からの来賓を招き、茶会を開いた茶室に関して博多の豪商であった神屋宗湛（かみやそうたん）が残した『宗湛日記』の記述を追いながら再現するというテーマでしたので、当社の職人集団がそれぞれの技術を活かし、現代の素材や技術の粋を存分に発揮し、できうる限り当時の天下人の茶室に近づけて再現いたしました。
約7か月間におよぶ制作の過程で、今回再現の命を受けた「黄金の茶室」は秀吉が大坂城から名護屋城まで運ばせ、茶の湯を楽しんだという記録から組立が自在で、持ち運びが可能であったとのことでした。その為、当社では今回制作した黄金の茶室に釘を一切使わず、溝に壁をはめこむ脱着可能な方式を採り入れる事で、移動式という特長を再現しました。また、この方式では塗料を塗り重ねた塗膜の厚みの不均一さで組み立てられないといった不具合がないよう塗膜の厚みを均一にする為に、75の部材全て、木地から塗装工程の中で何度も当社の熟練した職人が研ぎの作業を繰り返し行う「研ぎ」工程が難関の一つでした。
また、金箔押し工程も2020年ユネスコの無形文化遺産に登録された金沢の「縁付（えんつけ）金箔*1」を当社の技術で、全ての部材に2度の箔押しを施し、艶のある美しさと上品な輝きを放つ黄金色を再現できました。今回の黄金の茶室を制作するにあたり使用された金箔の枚数は約1万6千5百枚にのぼりますが、天下人が愛してやまなかった黄金の茶室を再現するには現代の最高の素材と卓越した技術があってはじめて仕上げることができたのだと思っております。
今回制作した黄金の茶室は制作期間の中で4度の仮組を行い、全体の色調・艶及び組みあがり状態での誤差のないことを確認し、令和4年2月28日に佐賀県立名護屋城博物館に無事設置が完了しました。
動画提供：佐賀県
令和4年3月27日の佐賀県主催によるオープニングセレモニーが行われた後に、
一般公開が始まっており、ぜひ一度美しい佐賀の風景を楽しみながら、佐賀県立名護屋城博物館まで足を延ばしていただき、ご鑑賞いただきたいと思います。
写真提供：佐賀県
今回「はじまりの名護屋城。」プロジェクトの一環で天下人の黄金の茶室の再現プロジェクトに携わらせていただいたことを当社グループ全体の栄誉とし、関係者皆さまにご指導いただきましたことに深く感謝を申し上げます。
*１ユネスコの無形文化遺産に登録された金沢の「縁付（えんつけ）金箔」
2020年12月金沢の伝統的な金箔製造技術「縁付（えんつけ）金箔製造」を含む「伝統建築工匠の技」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。「縁付（えんつけ）金箔」とは雁皮（がんぴ）紙を藁灰汁（わらあく）や柿渋などにつけ込んだ専用の箔打紙を用いて、金を厚さ1万分の1ミリまでの打ち延ばした後、竹製の道具を用い、一枚一枚を規定の大きさに裁断して製造された金箔の事を言います。
